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2017/12/14

砂の時計台 Ep.6

六、
 
「そもそも、じゃい」
アビエルがものすごく不機嫌そうな声で言った。
腕組みして半眼でこちらを見下ろしてくる。アビエルには足はないけれど、もし足があったら仁王立ちしているんだろうなあと、ダフネはぼんやり考えた。
「なじょお前柱に会うんじゃ」
「え?」
「ああたしかに、それ僕も純粋に不思議だった」
爪を掃除しながら、こっちを見もせずにヨーデルが口をはさむ。それが不快だと言わんばかりにアビエルはヨーデルの脳天を睨みつけたけれど、当然あまり意味はない。
「会って何かいいことがあるのかな?」
キリシャがのんびりと、相変わらずにこにこと笑いながらじっとダフネを見つめてきた。キリシャはなぜかものすごくこちらの目を見てくる。反らすわけにもいかないし、反らすこともできないし、ダフネはそのぼやけた色合いの瞳を同じように見つめ返すしかない。少々仰け反りながらだが。ヨーデルが苦笑した。
「またお前、歯に衣着せぬ物言いだね」
「うん?そうかな?」
にこにこしたまま、キリシャはきょとんと首をかしげる。
「もっと遠回しな表現はいくらでもあると思うけど、僕は。まあ僕個人的な意見では」
「そういうものなんだ」
「どうでもいい!」
アビエルが怒鳴る。
ダフネはうーん、と唸った。何故と言われても困る。ただ、最初に会った人で、しかもほんのちょっとしか会えなかったから、また会いたい。それだけのことなのだ。その気持ちを、ヒケに気付かされたから、本当に会いたくなった。頭の中は正直そのことでいっぱいだ。声が綺麗だったな、とか、儚げだったな、とか、とても綺麗な金の髪だった、とか、結局そのすべてを、もう一度ちゃんと見て聞いて、感じたい。
ふと、ダフネはヒケのことを思った。そういえば、どうして私はヒケにもう一度会いたいなと今まであまり思わなかったんだろう。
ヒケ。とても不思議な子だった。オリヴァロとは違う意味で、だ。オリヴァロは本当に、まるで夢のような、夢そのもののような人だったように思う。ヒケはまるで。
まるで、悲しみそのものだ、と思った。ヒケのことを思い出すと、あの頬と腕に残っていた焼き鏝の跡が頭から離れなくなった。痛そうだ、と思ったのだ。辛いと思った。それでも、あんな傷を火傷を残されてなお、凛とした横顔が、可愛いと思った。綺麗だと思った。
「わたしね、」
ダフネはぼんやりと考えをまとめながら言った。
「オリヴァロに会ったら、今度はヒケに会いに行きたいかも」
「はぁ!?」
アビエルが素っ頓狂な声を上げる。
「え?な、なに?」
「意味わがらん!意味わがらん!!!!」
ぶっ、とキリシャが吹き出した。
「あはっ、あははははっ」
「笑いすぎだっての」
「だって、面白いなあと思って」
キリシャは肩を抱える。
「二人一緒に会おうとかそういう選択肢の前に、順番なんだね、順番に会いに行くんでしょ、これが面白い以外の何だっていうの」
「ああ、なるほど。あんたのツボはそこだったわけね」
ヨーデルが苦笑する。
「でも、一番に会いたいのは白麒麟なんだね」
「うん」
「なぜ?」
目に浮かんだ涙を拭きながらキリシャがたたみかけてくる。ダフネはきょとん、とした。
「だって、最初に会った人だもの。一番長く会ってないんだもん」
「あはははははははっ」
また腹を抱えて笑いだす。ヨーデルの際に顔を隠して、地面をばしばしと叩いていた。何がそんなに面白いんだろう、とダフネはぼんやりと思う。
「面白いなあ本当に。褒め言葉だよ」
「うさんくさいよ」
ヨーデルが呆れたように言った。
ふと、不安になってダフネはおそるおそるアビエルを見た。
「だめなの・・・かな?」
「すぐなぐとも、」
口ごもりつつアビエルは答える。
「白麒麟に会うよが梟の方見つかりやず」
「え、でもそれじゃあいつまでたってもヒケを探しに行けないわ」
「もう、君って、ほんっとに、あはははっ」
キリシャは地面に転がった。
 
「あれかねえ、刷り込みってやつかねえ」
「あるいは一目惚れってこういうことじゃないかな」
「まーたそういう話にすぐ持っていく。ほんと好きだね、男のくせに」
「いいじゃない、面白いのだもの」
「刷り込み?」
ヨーデルとキリシャの軽口の応酬に、アビエルが口をはさむ。
「ほら、生まれたばかりの赤ん坊って、初めて見たものを母親として認識したりするでしょ。それと似たようなものかなって。意識をもって初めて見たのが白麒麟だから、恋しくなってるんじゃない?」
「それを恋だと勘違いするのもよくある話だよね」
「だから、キルはどうしてそういう話にすぐ持っていくのさ」
キリシャはにこにこと笑うだけだ。
「あー、なる」
アビエルが珍しく素直に頷いた。
「ダフネはもどもどそういうもん。潜在的柱のこど、心に棲んでるがら、柱へ尽ぐす」
「好きな人には貢いでしまうような感覚だね」
「まあ、好きでもない人に尽くすのは苦痛だよねえ。てか、だから、キルったら」
アビエルは二人の軽口は完全に無視した。
「だども、普通、普通な、」
アビエルの声は少し暗かった。
「普通は、ダフネ、一度もあいつに会わないまま終わる。それが、当然」
ダフネは一瞬、言われた意味が分からなかった。
「え?でもわたしは会ったよ?それって、どういうこと?」
「だがら、この世界の柱には、いぐらダフネと言えど、普通会えん。なのに、なじょお前会ったんじゃいろ」
「なんで会っちゃいけないの?」
「え、や、会っちゃいけんつかな、」
アビエルは眉尻を下げた。
「まあ、うん、会っだらいがんのかも知れね。だど、そもそもダフネ普通会いたがらね。寧ろ全力で会いたがらね」
「普通?」
ダフネは眉をひそめた。
「あのね、ずっと気になってたんだけど、ダフネ、って名前の子、他にもいるの?」
「いるというか、いたんじゃないかな」
キリシャがのんびりと言う。
「だがらそういうこどは!」
「え、何で言っちゃいけないのさ」
「ええい黙れど阿呆。お前引っ込んでろど阿呆」
ヨーデルはアビエルの罵声に肩をすくめた。
「かな?」
ダフネが聞き返すと、アビエルは厭そうに舌打ちして顔をそむけた。キリシャはにこにこと笑いながら続ける。
「そうだね、これは僕の推測だけど、たぶん、限りなく正しいと思うけど、言っちゃいけなかったんだろうね」
「それ今言っだわ!!」
アビエルが吠える。キリシャに意に介した様子はなかった。
「違うよ、言っちゃいけない、ってことを言いたかったんじゃないよ。そうじゃなくて、たとえばさ、考えてみようよ、もし君が、【やぁ君、しばらく僕のために働いてくれるかな?だいじょーぶ、君が死んだらいくらでも代えはあるからね!死んでも困らないからぁ、思う存分危ないことしちゃってくれていいよ!僕のために命張ってね~!じゃあ頑張って!うふふ】とか言われたらどうかな?胸糞悪いでしょ」
「キル、あんたさ、一体どこへ行きたいの」
ヨーデルの呆れた声を、キリシャは笑顔で流してしまった。アビエルも呆れている。ダフネと言えば、少々気圧されていた。
「うん・・・?」
「胸糞悪いよね?」
「う、うん、」
「ね?」
「む、胸糞悪いです・・・」
「何言わせどんじゃこのボケボケボケ!!」
「うん、よくできたね。で、そういうことだよ、きっと。たぶん。自信ないけれど」
「無視すんっな!!」
「あれ、さっき自信あるみたいなこと言ってたじゃん」
「僕は推測だとちゃんと先に言ったよ」
キリシャはしれっと言った。
「それで、煙さんの言い分だと、ダフネには普通生まれた瞬間から作為的に柱への刷り込みは施されていて、実際にはダフネはその柱自身には一度も会うことのないまま終わる、そうだったかな?」
アビエルは何も言わない。
「だから、これも僕の推察だけど、」
「自信はないんだろ、わかった、先続けろ」
「ありがとうヨーデル。多分、情をわかせないため、っていう理由もあるんじゃないのかな、柱がダフネに会わないのは」
「あー・・・つまり、つまるところ、あれだろ?」
ヨーデルは髪をいじりながら面倒そうに言った。
「元々印象として、絶対的存在として柱の存在が埋め込まれているところに、さらに本人に会うという強烈な印象を残したら、浮彫の柱への執着の度合いは確実に膨れ上がるよな、そうするとまずいことがあるんだろ、多分」
「多分、会えないというか、会っちゃいけない、のかな。ダフネに探しに来られたら本当は柱が困るのかもしれない。つまり、世界にとって困ることがあるってことだよね、きっと」
「で、でも」
ダフネは頭をぐるぐるさせながら口をはさみこんだ。
「ヒケは、わたしに、じゃあ探せばいいんじゃない、って言ったの」
「そこがおかしいんだよねえ」
ヨーデルのいじっていた髪の房が複雑に絡み合って鳥の巣のようになっている。
「矛盾してる。それこそ意味分かんない。あいつ何させたいわけ?」
「オレに聞がれでも知らねわ」
「ですよねえ」
「というかね、そもそもね、君が柱に会ったことがある段階からしておかしいよね、それだとすると。だって、さっき言ったでしょう、きっと柱とダフネが邂逅すること自体が禁忌に近いものであろうこと。なのに既に会っているというのなら、矛盾どころの騒ぎじゃないと僕は思うよ。それとも、既に会ってしまったから、寧ろもっと会うことで世界に何かしらの変化を作ろうとしてるのかなあ」
キリシャはふっと表情を消して思案する。
「その考えで行くとさ、既に世界に何か変なことが起こってるってことじゃん」
ヨーデルは面倒そうに言った。
「歪みっていうかさ」
「歪んでたのはもともとじゃないかな」
キリシャが小さく呟いた。その声を拾って、ダフネは少し背筋が冷えた。
キリシャの目は暗い。けれどすぐに、また笑顔に戻った。
「もう一つ推論があるんだけれど」
「ああもうどっちにしろたぶんきっとそうかもね、なんでしょさっさと言って」
ヨーデルが声を上げた。キリシャはにこにこと頷いた。それは嬉しそうだ。
「あのね、君は、君が最初に会ったのが柱―オリヴァロだと誰から聞いたのかな」
「え?ええと、その」
ダフネはあまりはっきりしない記憶をさかのぼる。
「あのね、はっきり言われたわけじゃないの。だって、ヒケってものすごく回りくどい言い方をするの。何回も聞き返すと嫌そうな顔をするの。だからその、ヒケの話の前後で、どうやらさっき会った人がオリヴァロらしい、ってわかっただけなの。だから、その」
「ああ、それは確実に野郎だ」
「ああ、ヤローだな」
「おう、初めて意見がぴったり合ったな、ハッカリ」
「お前と阿吽の呼吸なんざ死んでもおごとわりじゃ腐れ」
「や、やろー?」
「ふうん、どういうことかな、ちょっと僕にもわからなかった」
「だから、ヒケだと浮彫くんが認識しているやつは確実にヒケ本人だろう、ってことだっての」
「ああ、そうか。その可能性を考えていたんだね」
「ど、どういうこと?置いて行かないで・・・」
「ああ、だから、どうもこの二人は、君が【オリヴァロ】だったり【ヒケ】だったりと認識している人物が、本人じゃないかもしれない、偽名を名乗られた別物かもしれない、って線も考えていたってこと、かな、きっと」
「またきっとかよ」
「だけんど」
アビエルが静かに口をはさむ。
「あいづは嘘はつがねよ」
「え、そうなの?」
「嘘はつがね。黙るか言うか、どっちが」
「そうなんだ。意外だね」
キリシャがなぜか楽しそうに声を弾ませた。
「皆に嫌われてる銀梟はどれだけ悪どい人間なんだろうって楽しみにしていたのに」
「あんたと一緒にしてやるなって。さすがに僕も梟のやつに同情したくなってきたし」
「あのさ、あんだら、オレ思っだんだども」
「何?」
「なんでオレだぢ仲間みてに和んじょる」
「いいじゃない、僕たち一蓮托生で行きましょうよぅ」
「きめ。消えろ。腐れ。焦げろ」
「うわひど」
「うーん、僕はね、別にここでお別れしてもいいんだ」
キリシャは相変わらずにこにこして言った。
「僕には特に強い目的もないし、あったとしても特に柱に関係もないと思うから。だけどヨーデルはそうじゃないし、それに」
キリシャはそこで、なぜかぶつかりそうな距離までダフネに顔を近づけた。さすがにダフネも肩をこわばらせる。
―近い、近いわキリシャ!
「この子が僕たちと離れたくないのなら、行ってもいいよ、一緒に。僕の気分しだいだけど」
「え、あの、え」
これはなんて答えたらいいんだろう、とダフネは焦る。
ここで二人が離れてしまうのは少し寂しかった。三人の会話を聞いているのは、ダフネは結構好きだ。だけど、これは、
―強制?あれ?
ダフネはぎこちなく笑った。
「ええとね、離れるのは寂しい、よ?」
「うん、ありがとう」
キリシャは嬉しそうに笑うとようやく顔を離してくれる。
「じゃあ検討の余地はあると思うんだ。どうかなヨーデル」
「あんたさぁ・・・はあ。またかよ、余地、ねえ」
ちらりとみると、アビエルは口をあんぐり開けて固まっているようだった。どうして微動だにしないのだろうとダフネは少し心配になってくる。
やがて、きっ、とキリシャを睨んだあと、アビエルは叫んだ。
「表に出ろおおおおオオ!!!!!!」
表ってどこだろう、とダフネはぼんやりと考える。服の表だろうか。
つまり服を脱げということなら、それは少し困るかな、とダフネは肩をすくめた。
そういえば、と少しだけダフネはキリシャのくすくすと笑う横顔を見つめた。
話が途中で途切れたような気がする。それとも、意図的に反らされたのかもしれない。
―この人、なんだか・・・
少しだけ怖いような気がした。ヒケの方が怪しかったけれど、ヒケの方がずっと怖くないと思う。
―会いたくなってきたなあ・・・
ダフネは空を見上げた。ヒケの羽根と同じ色の空が広がっている。
―あれ?
ふと、強烈な違和感を覚えた。
オリヴァロにも、この色はなかったか。
オリヴァロの服を、髪を思い出す。黄色と金色のよく映えた衣装。
青なんて、そこにあっただろうかと不安になる。
頭が痛くなるまで記憶を振り絞って、ようやく、その瞳に至る。
―そうだ、あの子の目は空の色だった。だからきっと覚えてたんだ。びっくりした。きっと、
きっと、そうだよね?
まだ、心臓は痛いほど早鐘を打っている。




 




 
 

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2011/11/03 小説:砂の時計台 第一章 Trackback(0) Comment(0)

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