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2024/03/29

砂の時計台 Ep.0‐1

砂の時計台

 

 

紺碧の海

陽の光は細かに煌めき

まるで砂金のよう

白い砂を固めて作られた

煉瓦造りの四角い家々に

不釣り合いなほど優美な円柱の

天辺からはいたずら好きそうな大理石の天使が

わたしを見下ろしていた

無性に胸がざわめいている

ああ たしかにわたしは

ここにいたのだ


幾つもの星を渡り

幾千もの哀しみを糧に

生まれては終り

瞼を閉じてはまた開く

安らかなる時の輪の中で

もう動けないくらい

泣きながら歩いてきたけれど

やっと戻って来られたのだ

あなたに会うために

あなたの海にも勝る

深い深い暗闇に

負けないために

強くなったから

わたしは歩いていく


あなたは今も

あのすすけた本を読み掛けのまま

またうたた寝しているのかな

あなたは【全て】だったから

みんなが待っているわ

ここは綺麗な国だけど

いいかげん旅立たないと いけないよ

あなたの長く透き通る銀青の柔らかな睫毛が

震える感覚を

わたしはやっと 思い出した





 

Prolog

 


僕はあの塔が好きだった

どこまでもどこまでも高くそびえ立つ


どこまで手を伸ばしても 空には届かなかった

およそ森と呼ばれるものは

全てただの壁画だった

皆が海だと尊ぶものは

ただの空の映し身だった

僕は塔の一番下で

たくさんの蔦に絡まれ

ただ空を見上げていて

けれどそれが 余りにも当たり前だったから

何も辛くはなかった

むしろ辛かったのはきっと

君に出会ったからだよね

君は僕の内側に踏み込んで

僕を滅茶目茶にした

君に会って初めて

こんなにも心が痛いものだと知った

僕は君と一緒に

この塔を抜けて

天窓から覗くあの青に

飛び込んでいきたかった

吸い込まれたかった

僕は孔雀の羽に包まれて

ただ不格好に飾られた絵を見ることしかできない

寂しくはなかった

僕には銀色の美しい梟がいてくれたから

僕のただ一人の相棒だった

だけど

僕は見つけてしまったんだ

いつもどおり

君が現れるはずの 額縁の中

赤と朱

黄色と金色のアーチの中に

ひそやかにたたずむ柔らかな白の

ほっそりとした姿


真っ白な麒麟がそこにいて

首を少しだけかしげていた

君が来るのだと思っていたのに

うして僕にはあの時 麒麟が見えたのかな

だけどあの時知ったんだ

もしかしたらここは

何かを間違えた世界なのかも

しれないんだって

背を向けて森に消えた白い麒麟を追いかけることもできないまま

僕はぼんやりとそんなことを

考えていたんだ



 






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2011/07/26 小説:砂の時計台 序章 Trackback() Comment(0)

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