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2017/12/14

砂の時計台 Ep.3

 
三、
 
ハッカリ、もとい、アビエルはふわふわと浮きながらダフネを先導してくれている。なんとなくその姿を目で追うために空を見上げるので、ダフネは何度かけつまづいていた。
けれど、頭上を見渡してようやく気付いたことがある。
ここはとても不思議な世界だ。少なくともダフネは、こんな世界、見たことがないと思った。記憶が全くないのに確信できるのが不思議だが、それでも、こんなものは自然ではないと思った。
まるで影絵だ。
どこかで、こんな影絵を見たことがある。影絵の森。木の幹も枝も、そして一つ一つの葉っぱでさえ、まるで人の手による工作のように、均整のとれた幾何学的でどこか複雑な形をしている。
まず木の葉がただの緑ではない。緑を基調とした虹色だった。まるで薄いガラス板のようだ。
それらを透かして降り注ぐ虹色の光がアビエルの白い体を色づけて、まるで万華鏡のように移り変わる。とてもきれいだった。
空は、ダフネもよく知っている澄み切った空だ。けれど雲がなかった。びっくりするほど全くない。綺麗だけどどこか違和感がある。そして何より、真昼間で見えないはずなのに、青い空の中に銀色の星のような光が満点にきらめいているのがわかる。とても綺麗だった。綺麗だけど違和感だ。
木々の間を、くすくすと微かな楽しげな笑い声がかすっていく。
眼を凝らすと、小さな人の形をした影絵たちが生きていた。とても綺麗だ。けれどダフネはぎょっとして身をすくませた。あまりにも生き生きとしている。影なのに。
「あ?どした」
「あ、あれ・・・っ」
アビエルがダフネが立ち止まったのに気付いて振り返った。ダフネの呼びさす方向を目を細めて見つめる。
「あー。【切子】たぢ」
「き、切子?」
「いたずら好きだども、根は悪ぐね。ほっとげ」
「ほ、ほっとけと言われてもその、気になるというか・・・」
「そさな。おまえも気をづけろ。役目はだせないならおまえもいつか影になる」
「え、え?」
「ダフネいつも白麒麟失望させる。そのたび紙切れになって、消える。還っていく」
「き、消える?わたし消えちゃうの!?」
ダフネは自分でも驚くほどの声をあげてしまった。
「ま、気にするこどじゃね」
「き、気になるよ?」
「ダフネ消えでも、おまえ消えるわけじゃね。おまえは還るだけ」
アビエルはふと、自分の両手を見つめた。
「この世界、みんなみんなそうだ。みんなほんどうはただの紙。白麒麟柱にしてやっと動いてるただの紙人形さけ」
ダフネは思わず自分の手首を掴んだ。けれど確かにやわらかくて、立体がある。とても自分が紙とは思えない。
「ね、ねえ、どういうこと?」
「おまえ」
アビエルは少しむっとして振りかえった。
「質問うるさい。流れにまがせろ。面倒じゃ」
「でも、でも、わからないことだらけじゃ不安になるんだもの」
「おまえほんどに変わってんな」
アビエルは呆れたように言った。
「このせがいにいる人間で、お前みだいに質問だらげのちんちぐりん見たごとねわ」
「ち、ちんちくりんだなんて、ちょっとひどいと思うの!」
ダフネは身を縮ませながら小さく抗議した。アビエルはにやっと笑った。
「おまえ、応えるよなっだな?」
その不敵な笑みに、ダフネはうつむくしかなかった。顔が熱い。
「だけど・・・」
ダフネはそっと、自分のそばをひらひらと舞う影絵のような見事な細工の蝶に振り返りながら呟いた。
「みんな、生きてるのね。表情はよくわからないけど、なんだか楽しそうに笑ってる気がする」
アビエルはにっこりとやわらかく笑った。
「あだりまえだ。こごは満たされたせがい。不幸なのはめっだにいね」
「滅多にいないの?誰かは不幸なの?」
ふと、不安になってダフネは問うた。アビエルは奇妙なものを見るような眼でダフネを見つめてきた。
「おまえほんどうに変わった人間じゃね」
「そう、かな・・・」
「そりゃ、犠牲の上になりたっとるせがいじゃ。ここは。だげと、犠牲自身がそれを幸福と思ってる。だからどうしようもね」
そう言ってふと、アビエルは口元を覆って思案した。考え込む時の彼の癖だ。手の甲で口を覆ってしまう。
「だども・・・そうけ。あいつだげは自分不幸思ってるかもな。けんどそれを面白がっでるから救いよね」
「誰のこと?」
ダフネが聞くと、アビエルは肩をすくめた。
「お前には関係ね。あいつは干渉嫌い。深入りすな」
そのまま前に飛んでいく。ダフネもその後に続いた。
ふと、歩いているうちにひらひらと何かが落ちてきた。花弁のような手触りのそれは、黒く縁取られた色とりどりの薄い硝子のかけらのようだった。はっとして見上げると、切子たちがくすくす笑いながら紙吹雪のようにダフネの頭上にかけら達をこぼしている。
ダフネは思わず頬を緩ませた。アビエルがまたしびれを切らして戻ってくる。
「おまえほんとに寄り道好きだな」
「ねえ、これは、切子さんたちがわたしのためにしてくれてるのかな?」
ダフネがにこにこしながら聞くと、アビエルは嘆息した。
「ま、おまえは切子に好かれたんだろ。そもそもダフネは誰にでも嫌われん」
「そうなの?」
「否定しね」
「でも・・・」
ダフネは少し寂しげに笑った。
「無条件に好かれるってなんだかさみしいな」
「なんだ?おまえ嫌われだいか」
「え?ううん、嫌われるのも悲しいけど、でも、うん・・・うまく言えないけどちょっと悲しいかなって」
「変な奴」
アビエルは肩をすくめると、ダフネの手首を掴んで引っ張った。
「お前寄り道すっから一向に前に進まね。さっさ歩げ」
「あ、うん、ごめんね」
ひとつかみの硝子吹雪のかけらをもって、ダフネはアビエルの後ろをついて行った。
 
「そういえば」
影絵のような木にたわわに実る赤い林檎のような宝石を見上げながら、ダフネは呟いた。
「お腹・・・すかないな」
「は?すぐわけね」
「え?でも、普通お腹すくものじゃないかな」
「食べなぐても生きれる。むしろ食べるものね。食べるなじょ鬼畜のやるこど」
「ええ?」
ダフネは混乱した。この世界で眼を覚ましてから、次第に薄れつつある【いたはずの世界】でのおぼろげな記憶が、この世界がおかしいことを告げる。
食べないなんてあるはずがない。食べものを食べて人は生きているのだ。甘いものも辛い物も、まだ舌が覚えている。
そういえば、喉も全く乾かないことに気付いた。ダフネはおそるおそる、隣で腰をおろしているアビエルに尋ねた。
「ねえ、この世界にはお水もないの?」
「は?水?あんにきまっでんだろ」
「そ、そう」
少しだけほっとする。
「この世界、水があるから生きてられる。色も光も全部水から命貰ってる」
「そうなの・・・」
「だども」
アビエルが半眼でダフネを見つめてきた。
「それは生き物のものじゃね。この世界の元素のものじゃ。お前といえども水は触れちゃいけね」
「え、ええ?」
「水に勝手に触れだら、浮彫と言えども容赦できね。おまえ消えんぞ」
「そう、そうなの・・・気をつけるわ」
「おう」
わけがわからない、と思いながらダフネは林檎のような深紅の【果実】と呼ばれる宝石を見つめた。この世界では木に成る実はすべて、ダフネがどこかで見覚えのある宝石ばかりだった。硬くて、とても食べられたものではない。もちろん空腹感もないので敢えて食べようとは思わないのだが。
一瞬、何かが一気に木の枝の隙間を横切った気がした。白く細い線。
「え?」
ダフネは思わず声を漏らす。けれど、それが何か、ぱっと見では分からなかった。アビエルを振り返ると、物凄く不機嫌そうに顔をしかめて、実を睨みつけていた。その視線を追う。ダフネはようやく気付いた。いくつかの実が貫かれている。白銀の細い針金のようなものに。矢のようなものに。
ダフネはびっくりした。まさかあの硬いものを貫けるものがあるなんて思わなかったのだ。
やがて、矢の突き刺さった実たちはふるふる、と体を震わせて見る見るうちにサファイアのように青く染まると、地面に落ちた。地面にあたり跳ね返るとき、まるで鈴のような音が鳴った。
その瞬間、ぴょん、と何かが遠くの木から枝を飛び越えて降りてきた。
「よっしゃあいっちょあがり」
声変わり前の少年のような凛とした声がダフネの耳に届く。状況を理解するのに時間がかかった。
少年なのか少女なのかわからない中世的な雰囲気を宿した、ダフネと背丈の変わらない子供が落ちた宝石をひょいひょいと腕の中にほうりいれる。ダフネの足元に転がってきていたそれに手を伸ばし、そうやくダフネに気がついたように、それはきょとん、とした。
「あれ?人?」
「まだ生ぎてたが。こんちくしょう」
アビエルがものすごく嫌そうに言った。少年らしき人物はぱっと笑顔になった。
「おうハッカリ!元気にしてたか?あれ?てことはこいつあれか、浮彫か!」
彼はばんばん、とダフネの背中をたたいた。痛い。
淡い苔色の髪と目が、とても綺麗だ。
「なんだぁほんっとにいっつもいっつも可愛い子ばっかだなあ。あいつほんとは面食いだろ」
「柱を悪ぐ言うんじゃねこんちくしょう」
「悪く言ってないだろ、見たまんま言ってるだけで」
少年はにっこりと笑う。
「だ、誰?」
ダフネはようやく声を出した。少年はきょとんとして、またにかっと笑った。八重歯が可愛らしい。
「僕はヨーデル。ヨーデル=セラエ。管理名は鳩だよ。よろしく」
「は、鳩?」
「そう鳩。ちなみに伝達屋してる」
「わ、わたしは」
「ダフネ、管理名浮彫、だろ?わかってるわかってる」
またばんばん、と肩を叩いてくる。結構本当に痛い。
アビエルはものすごいしかめつらで、ダフネをヨーデルから引き離した。
「えー何ぃ?いっぱしの男の面しちゃってえ」
ヨーデルがにやにやする。
「気色わりごと言うでね。お前とかかわってろぐなことね。さっさと帰れ消えろ二度と戻ってくんな」
「えー何だよ。ここで再会したのも何かの縁じゃん」
「その口ふさいでやろうか、気色わり」
「あ、アビエル、気色悪いってあんまり言うのはちょっと・・・」
「こいつには何言ったって腹の虫がおさまらね!」
「アビエル?」
ヨーデルは眉をひそめた。ダフネはおたおたする。
「あ、あの、名前をつけたの。アビエルって、彼に」
「へえええええ。アビエル、ねえ。名前、ねえ」
ヨーデルは眼を細めてアビエルを見る。その視線に少しだけダフネは肌が泡立つのを感じた。
―何・・・?
アビエルが身をすくませたのがわかる。アビエルはちっ、と舌打ちをした。
「こいつは嫌いだ」
小さくつぶやく。ヨーデルはにこにこしている。
「大体、何だおまえ?知恵の実勝手に摘んで、許されるど思ってんのかこら」
「ええ?でも仕事だしーこれが僕の。ま、今のところは、だけどね」
そう言って、おもむろに後ろの藪を振り返る。かさかさ、と草が揺れて、見事な白髪頭が顔をのぞかせた。
「あれえ?人が増えているね」
「よう、遅かったな」
ヨーデルはにかっと笑った。現れた少年はそれを曖昧な微笑で受け止める。
少年は薄茶の瞳をしていた。ぼんやりとした表情できょろきょろと周りを見ている。
「キリシャ、こいつ僕の知り合いのハッカリ。今はアビエルに改名したんだとさ」
「おめの知り合いになっだ覚えね」
ものすごく低い声でアビエルが毒づく。ひどくイライラしているのがダフネにもわかった。
「ふうん」
相変わらずにこにこと薄く笑いながらキリシャと呼ばれた少年はアビエルを見つめる。
「でもってこの子は新しい浮彫らしいよ」
ヨーデルはダフネを指差した。そこで初めて、ダフネはヨーデルの爪が藤色の塗料で塗られていることに気付く。
「へえ、そうなんだ」
キリシャは表情一つ変えない。
「人指差すんじゃねその汚い指ひっこめろ」
「ひどくないちょっと?僕ちゃんと手入れはしてるんだけど?」
ヨーデルは肩をすくめた。
たしかにとても綺麗な手だとダフネも思った。まるで女の子のようだ。白くて、小さくて、細い。
ふわあ、とキリシャがあくびをした。アビエルがぴくり、と眉を吊り上げたのがダフネにもわかった。
「アビエル」
小さな声でアビエルの名前を呼ぶと、アビエルは嘆息した。
「ああ、そうだ。俺名乗ってなかったね。キリシャ=ヘンゼルだよ。よろしく。ちなみに管理名は針」
「いや、さっき僕紹介した」
ヨーデルは肩をすくめる。ふと、ダフネはキリシャの顔色が悪いのが気になった。
「あの・・・」
「何かな?」
キリシャはあくびを噛み殺しながら首をかしげる。それと同時に、ふらり、と体が前に大きく傾いた。
「えっ」
ダフネは思わずその肩を掴んで支えたが、数歩よろめいた。
「あ、しまった。時間切れか」
ヨーデルは呑気に言った。
「なんだぁこいつ!?」
アビエルが物凄く素っ頓狂な声を出して顔を真っ赤にした。
キリシャはすやすやと眠っている・・・立ったまま。
けれど、首に触れたキリシャの頬は、不安になるほど冷たい。ヨーデルは残りの宝石を拾うと、
「ごめん、浮彫。そのままちょっと支えといてもらえる?」
少しだけ申し訳なさそうに言うと、器用にキリシャの服をめくった。そうして、背中に今拾ったばかりの宝石を一つ一つ埋めていく。埋め終わると、キリシャの体が青白く発光した。キリシャは虚ろに目を開ける。その眼はまるでガーネットのように赤く光っていた。やがてそれらの光は粉となって散った。キリシャの眼の色も元に戻る。キリシャの体はまたくたり、と力を失った。重みがダフネにかかる。アビエルがキリシャをダフネから引き離した。ものすごく不機嫌だ。
「おまえ、あれか、こいつに雇われてんのか」
アビエルの言葉に、キリシャの体を受け取りながらヨーデルはにっこりと笑った。
「うん、そう。【鳩】の仕事よりずっと儲かるよ。金蔓」
ヨーデルは悪びれもなく答える。
「おまえ連れてくるやつ、ったく」
アビエルはものすごく嫌そうに言った。
「いづもいづも面倒事抱えてるやつばっかりじゃねか」
「うん、そうだね」
ヨーデルはにっこりとうなずく。
「でも利害は一致してるしね、それに、面倒持ち込んだ僕には面倒を消し去る責任もあるでしょ」
「そのためも一つ面倒増やしてどうすんだボケ」
「少なくとも、この子はあの梟よりはずっとまし。いい加減返してもらわないとね。あそこは僕らの一族の場所だ」
ヨーデルは薄く笑う。ダフネはぞっとした。
「そのため傀儡?」
アビエルの不快そうな声に、ヨーデルは首を振る。
「言ったろ?利害の一致だって。こいつも望んでることだよ。それに、僕にとってはある意味場所なんて本当はどうでもいいの。あの子が還ってこられるならなんだってするの。それに、」
ヨーデルはダフネに視線を移し、にやりと笑った。
「傀儡なのはむしろ君だろう?ねえ、ダフネ」
ダフネは眼を見開いた。アビエルを見たが、アビエルは瞳を揺らした後、ふっと眼をそらした。
妙に頭が冴えていた。心臓の拍動さえ感じられない。
ダフネにはわからなかった。いきなり傀儡だと言われてわかるはずがない。
「あれ?実感わかない?もっと簡単に言うなら、操り人形だよ、君は梟に糸をついばまれて、好きなように踊らされるんだ。哀れだね」
ヨーデルはくすくすと笑う。
「そう、この場所はとっても哀れなんだ。ハッカリ、お前もわかってんでしょ。君がここを好きなほど僕らみんなみんなが同じようにここを好きなわけじゃないってこと」
「それでもこごは綺麗な場所だ」
アビエルはうつむいた。
「オレは柱を裏切れね」
「柱があるから君は生まれたんだもんねえ」
ヨーデルはにこにこと笑った。
「でも君の願いがほんとうは別にあるって僕は知ってる。そして僕らの目的とそれは決して敵対しないことも知ってる」
ヨーデルはにっこりと笑ってダフネをもう一度見た。
「ま、おいおい話しましょうか」
ダフネはうつむくしかなかった。
 
 
 
 

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2011/10/08 小説:砂の時計台 第一章 Trackback(0) Comment(0)

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